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人の命なんてあっけないもんだから、だから後悔しないように毎日を生きろと言うんだけども、たいした稼ぎにもならない仕事やストレスに追われる日々じゃ、とてもじゃないが無理ってもんだ。
だけどその日、自分の抜け殻の前で、今までありがとうと、いろんな人に笑顔で言わせることが出来たのならば俺は、したり顔であの世に行くんだろうな。
だから俺は、たとえ日々を後悔しようが、ずる賢く、そんな生き方をしてやろうと思う。
お気に入り
お気に入りの革靴をずっと履き続けていたら靴底がすり減って穴が空いていました。
思っていたより早く捨てることになってしまい、とても残念です。
もう一足、適当な靴を用意して週替わりに交互履いたりすれば、ずっと寿命は延びるそうです。お気に入りだから長く使っていたかったのに結果として早く手放すことになってしまい、とても残念です。
だけどそういうもんなんだと思います。
それでもお気に入りだったんです。
風呂敷
彼はそのテーブルの上に、それは大きな風呂敷を広げた。
みんなは慌てて集まり、大きな風呂敷の上に物を置いていく。
仕事の失敗
終わった恋
家族との不仲
…とても1人ではかかえきれない物を、みんながみんな、その風呂敷に乗せていく。
包み込んでくれるから。
たとえどんなに荷物が多くても、彼がその広げた大風呂敷を仕舞い抱え込んでくれるから。
やがて、テーブルに広げた風呂敷は、たくさんの物で隙間なく埋め尽くされた。みんなは他人事のように見ていた。
彼は終始笑顔だった。
もう誰も物を乗せなくなるのを確認した後、彼は両手で風呂敷の端をつまんだ。
すると突如として彼の表情はこわばり、声を上げた。
『ヘヤッ!!!』
一瞬の出来事だった。
彼に勢い良く引かれた風呂敷は、見事にテーブルと物の間をすり抜けた。
ひと呼吸置いた後、彼の表情は再び笑顔となり、きれいに折り畳んだ風呂敷を手に、いかにもやり遂げたぞという足取りで去って行った。
風呂敷の上に積まれていた物は、決して形を崩すことなく、同じようにテーブルの上に積み重なっていた。