風呂敷

彼はそのテーブルの上に、それは大きな風呂敷を広げた。

みんなは慌てて集まり、大きな風呂敷の上に物を置いていく。

仕事の失敗

終わった恋

家族との不仲

…とても1人ではかかえきれない物を、みんながみんな、その風呂敷に乗せていく。

包み込んでくれるから。
たとえどんなに荷物が多くても、彼がその広げた大風呂敷を仕舞い抱え込んでくれるから。

やがて、テーブルに広げた風呂敷は、たくさんの物で隙間なく埋め尽くされた。みんなは他人事のように見ていた。

彼は終始笑顔だった。

もう誰も物を乗せなくなるのを確認した後、彼は両手で風呂敷の端をつまんだ。

すると突如として彼の表情はこわばり、声を上げた。


『ヘヤッ!!!』


一瞬の出来事だった。
彼に勢い良く引かれた風呂敷は、見事にテーブルと物の間をすり抜けた。

ひと呼吸置いた後、彼の表情は再び笑顔となり、きれいに折り畳んだ風呂敷を手に、いかにもやり遂げたぞという足取りで去って行った。


風呂敷の上に積まれていた物は、決して形を崩すことなく、同じようにテーブルの上に積み重なっていた。