深読み
「落ち込んでるようだな」
「・・・」
「なぁに、大丈夫さ。釣り具で例えれば今のお前は浮きのようなもんさ。」
「他人という名の魚のせいで足を引っ張られるってこと?」
「沈みっぱなしなことはないよって言いたかったの!!」
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言って良いことと、悪いこと。
自分にとって至極平気なことでも
相手にとっては逆鱗に触れる言動だったりする。
人のふり見て我がふりなおせ。
願わくば、その判断が出来る人になれますように。
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「そんなに生活苦しいの?」
「ええ、給料日まで耐え忍びます」
「頼れる先輩達にたかればいいじゃん」
「いや、それだけは」
「どうして」
「タダより高いものはありませんよ」
「よくわかってるじゃん」
「頼れる先輩達、て部分が皮肉なのもわかってますよ」
「ん。さすがにこの会社にも慣れたようだな」
贖罪
夢の中で彼女は、その左手の薬指にある指輪を申し訳なさそうに隠そうとするから僕は言った。
「 今さら何を気にすると言うの?いい加減君は先に進みなよ、僕もすぐ後を追うから。そしておめでとう。 」
彼女は笑顔で手を振りながら駆けて行った。僕は続いて歩き出した。
その日はすごく、目覚めの良い朝だった。
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人はいつ死ぬのかわからない。
それは当たり前の事なんだけど、ふとした瞬間に改めて思い知らされることがある。
人はいつ死ぬかわからない。だからこそ今をしっかりと生きなければと思う。
悔いのないように生きなければと思う。でもそれはすごく難しいことなんだなといつも思う。
今日、休職中だった先輩が出社してきた。
お母さんの納骨もまだ済んでないそうだが、
彼の立場上、やむを得ず正規の休職期日を半分以上も繰り上げての出社だった。
休憩中、先輩と話す機会があったが、
「 孝行したい時に親はなしって言うけど、ほんとそうだね。 」
と穏やかに僕に言った。
でも、病状が悪化される前に一緒に旅行に行けたそうで、
それが唯一の救いだと言っていた。
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片付けられない症候群と言う言葉を聞いたことがある。
物を整理整頓出来ない、したくても出来ない。もはや病気の一種とすら言われる片付けられない症候群。
なぜそうなってしまうのか理解出来なかった。出した物、使った物は仕舞う。不要になった物、捨てる物は都度、処分する。それが当たり前だと思っていた。
でも、今は違う。今はその気持ちが理解出来る気がする。きっと彼らには彼らなりの秩序があるのだろう。常に自分の手の届く位置に物を置き、どこに何があるかを全て把握していたりする。ただそれが周りから見たら汚いだけのことで、彼らなりの想いがそこにあるのだと思う。現に今の私がそうだからだ。
私が恋人と別れるまでは何があろうがすぐに片付けていた。花瓶が割れればすぐに片付けて新しい花瓶を用意する。いくら棚の中を荒らされ、金品以外の物が部屋に散乱しようが、すぐに片付けた。でも今は違う。
彼が私に投げ付けて割れた花瓶もそのまま。彼が荒らして放り出された棚の中身も、クローゼットの衣装も、全部そのままにしている。
だって、そこには彼の面影があったから。たとえ周りからどう見ても最低以外の何者でもない男だったとしても、私は確かに彼を愛していたの。
ここには確かに、彼の私に対する想いが残っているのだから、私は決して、この部屋を片付けたりはしない。想いがある限り、残り続ける限り、絶対片付けない。
なのに、私の想いとは裏腹に彼の身体は腐敗を続ける。肉塊となっても私の気持ちを拒み続ける彼の意思なんて私は知らないし、知りたくもない。
私は絶対、片付けない。
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寄せては返す波のように
人生にも波があります。
途切れることは、ありません。
途切れた時は、死ぬ時です。