片付けられない症候群と言う言葉を聞いたことがある。


物を整理整頓出来ない、したくても出来ない。もはや病気の一種とすら言われる片付けられない症候群。


なぜそうなってしまうのか理解出来なかった。出した物、使った物は仕舞う。不要になった物、捨てる物は都度、処分する。それが当たり前だと思っていた。


でも、今は違う。今はその気持ちが理解出来る気がする。きっと彼らには彼らなりの秩序があるのだろう。常に自分の手の届く位置に物を置き、どこに何があるかを全て把握していたりする。ただそれが周りから見たら汚いだけのことで、彼らなりの想いがそこにあるのだと思う。現に今の私がそうだからだ。


私が恋人と別れるまでは何があろうがすぐに片付けていた。花瓶が割れればすぐに片付けて新しい花瓶を用意する。いくら棚の中を荒らされ、金品以外の物が部屋に散乱しようが、すぐに片付けた。でも今は違う。


彼が私に投げ付けて割れた花瓶もそのまま。彼が荒らして放り出された棚の中身も、クローゼットの衣装も、全部そのままにしている。


だって、そこには彼の面影があったから。たとえ周りからどう見ても最低以外の何者でもない男だったとしても、私は確かに彼を愛していたの。


ここには確かに、彼の私に対する想いが残っているのだから、私は決して、この部屋を片付けたりはしない。想いがある限り、残り続ける限り、絶対片付けない。


なのに、私の想いとは裏腹に彼の身体は腐敗を続ける。肉塊となっても私の気持ちを拒み続ける彼の意思なんて私は知らないし、知りたくもない。


私は絶対、片付けない。