突然、山上からの電話が来た。今まで何をしていたのか聞く僕を制止し、彼は言う。


「お前の勝ちだ・・・」


あれは僕が大学2年の頃だ。さぼり癖がすっかり板についた僕らは、その日も学校に行かず家にいた。山上も僕と同じような人種で、何をするでもなく僕の家に来ていた。

やることはたくさんあるものの、それらには目を向けずただ、暇だな暇だなとオウム返ししていたのを覚えている。その時にあいつが提案したんだ。

「なぁ、イタチごっこしないか?」

僕は、山上の言ってる事がさっぱりわからなかったのだが、断る理由もなかったので、山上の提案を受け入れた。・・・その日を境にに山上は姿を消したのだ。


「おい!お前が突然姿を消して10年経つんだぞ!何を考えているんだ!?」

「なぁ、国連のセキュリティシステムが何度もハッキンキングされた事件、知ってるか?」

「・・あ、ああ、何度セキュリティを再構築してもことごとくハッキングされてるあの事件か?」

「そうだ。・・あれはオレがやったんだぜ?」

「はぁ?」

「それだけじゃない。オレはこの10年、出来る限りのイタチごっこをやってきた。だが俺はお前に負けた。昔からそうだったが、やはりお前には勝てなかったよ」

「言ってる意味がわからない。オレは確かにあの時、イタチごっこをやろうというお前の話には乗ったが、この数年、すっかり忘れていたんだぞ?そんな俺がなぜ勝つんだ。」

僕がそういうと山上は随分と無気力な溜め息をついて、言った。

「そういやお前、就職したそうじゃないか。いったいどんな仕事をやってるんだよ?」

「・・・地球の環境破壊防止についての研究機関だ。」



「それが答えだよ」


そう告げると山上との電話は途絶えた。なぜかはわからないが、山上とはもう会うことも話すこともないような気がした。